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縮小経済に向かう日本の将来

 危機になるまで変われない?!

2023年07月05日

内外政治経済

主席研究員
小林 辰男

 脱炭素、人口減少・少子高齢化、デジタル技術への対応、地政学的リスクなど日本経済を取り巻く課題は数え上げたらきりがない。短期的には新型コロナウィルス感染症による影響を脱し、2021年度は2.6%成長、22年度は1.4%成長とそれなりの回復を見せている。23年度中にはコロナ前の経済水準に回復するだろう。しかし公益社団法人「日本経済研究センター」で10年以上、主任研究員として経済予測を担当していた経験に基づいて、30年代以降を見据えた中長期の視点に立つと、日本は恒常的なマイナス成長社会に陥るとの予測がそれこそ"恒常的"だ。

財政・社会保障が破綻も

 現状を放置すると、マイナス成長という縮小均衡になり、財政や社会保障は破綻の危機に直面する可能性が高いというわけだが、なぜマイナス成長が恒常的な経済構造に陥るのか。

 まずは労働力。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によると、人口減少と高齢化が加速し、2030年代半ばには、65歳以上が総人口の32.3%を占め(20年は28.6%)、15歳から64歳の生産年齢人口比では56.1%と5割を超える(20年は48.0%)。50年には、この生産年齢人口比が7割超に達する。

女性活用にも限界が

 女性や高齢者を「もっと活用すればよい」との声はあるが、現実的とは言い難い。2000年代初めまでは、結婚、出産で30代半ばの女性は離職するケースが多かったため、女性の就業率グラフはM字だったが、このM字カーブはフラット化している。私自身の周りを見渡した実感からも、産休・育休を半年から1年間程度取得し、復帰するケースが多い。私の息子夫妻もこのケースで、私と家内は一か月に数回は「ベビーシッター」に駆り出されている。今以上の女性活用といっても限界がある。

 高齢者については、個人差が大きく、活用にはさらなる限界がある。「70歳まで働くべきである」と前職で政策提言したが、私自身、現状で感じる衰えから70歳まで働く自信はないし、一緒に提言した盟友ともいえる先輩は60歳代前半で天に召された。

労働力の平均年齢

 最後に外国人労働者だが、本格的な門戸開放(移民の受け入れ)には賛否両論があるうえ、円安ニッポンにそもそも優秀な外国人が、ハードルの高い日本語を習得して来るのかという根本的な疑問がある。要は労働力を増やすことで成長を図るのは難しいのに加え、人口減少・高齢化は内需も先細りさせる。

 労働力の増加が無理なら「生産性を向上させればよい」という主張も成り立つが、簡単ではない。日本の労働力人口の平均年齢をざっくりと計算すると50歳近く。労働力人口の平均年齢が、ある水準まで上がることは、技能を蓄積したベテラン・中堅社員、技術者が増えて生産性を高める効果が期待できる。しかし、働く人の平均年齢が50歳近くになっても、技能の蓄積が「加齢による衰え」を上回るのだろうか。個人差はあっても、高齢化がイノベーションによる生産性向上を阻害するように思えてならない。此方も私自身は完全にこのケースに当てはまると近年、実感している。

当事者の本音

 マクロ的な視点でも、技術革新や新たなビジネスモデル構築、創意工夫などから成る全要素生産性は低下傾向を続けている。図表は、この全要素生産性に加え、資本投入<設備やソフトウェア>、労働投入の寄与<一人当たり労働時間×労働者数>から算出する日本の成長力(潜在成長率、潜在的供給力)を示しているが、リーマンショックや東日本大震災の影響が一巡した2013年度ごろからコロナ禍によるショックが発生する20年度まで一貫して下がり続けている(緑の部分)。

 潜在成長率は、各種統計から推計するものなので、年度ごとの値にはブレがあるが、長い傾向をたどると日本経済の行く末を表す。政府の「中長期の経済財政に関する試算」の成長実現ケースのように、全要素生産性の伸びが足元の0.5%から3倍近くとバブル期並みの水準まで今後加速するという前提を置けば、2030年代の人口減少・高齢化社会でも1%後半の経済成長ができるとの予測は作成できる。しかし、試算当事者の内閣府関係者ですら、このようなケースが実現するとは本音ではまったく思っていない。

図表日本の成長力(潜在成長率)の推移(出所)内閣府『月例経済報告(2023年6月)』を基に作成

問われる日本人の覚悟

 日本経済研究センターの最新の中期経済予測(今年3月公表)は、恒常的なマイナス成長を避ける改革シナリオも提示している。実現に向けては、企業や組織が自前主義から脱却し、徹底したオープンイノベーションの推進、国内外の高度人材の活用などを徹底するべきだという。こうした努力によって日本の世界デジタル競争力ランキング(スイスのビジネススクールIMDが公表)を20位前後からトップ10入りさせれば、2030年代も0.6%程度の成長が可能と予測している。しかし、日本の雇用慣行、もしかすると同質で比較的穏やかな日本社会のあり方そのものも変える必要に迫られる。成長社会を維持するには、日本人全体の覚悟が問われる。危機になるまで日本人は変われないのかもしれないが...。

 6月から主席研究員を務めている小林辰男です。よろしくお願いいたします。

写真少子高齢化(イメージ)(出所)stock.adobe.com

小林 辰男

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